迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説

     11



今日は さんがパンの仕込みに取り掛かったものの、
自然酵母を使ったため、発酵待ちの時間が1時間も空いたのでと。
ご町内のクリーン作戦へ3人で繰り出すこととなった、
微妙な師弟トリオのお三人。
ちなみに、この後は ガス抜きをして、
5分ほどのベンチタイムを取ってから、二次発酵。
生地の大きさが1.5倍になったら成型して、いよいよ焼くのが手順だそうな。


くどいようだが、季節はまだ六月で。
陽のある日はやや蒸し暑いが、
今日は昨夜の大雨の余韻のせいか、むしろ過ごしやすいくらい。
クリーンデイというのは、
ご町内全域の草むしりと清掃を町内会で手掛ける全体作業のことで。
個々人のお家回りや私有地以外の全区域、
公道やその舗道から、児童公園や公民館までという一切合切を、
班に分かれて徹底的に綺麗にする、言わば月に一度の大掃除のようなもの。

 「あ、側溝の中まではいいから。」
 「はいっ。」

そういうところは業者さんに任せてるの、危ないしと。
当然といや当然のことながら、今日が初参加であるへ、
イエスやブッダの知り合い、
言わば“友達の友達”つながりで親しくなった静子さんが
きりりとした態度で的確な指示を出す。

 「静子さんて面倒見いいよね。」
 「うんvv」

サバサバしてるところも、
いっそ“男らしい”と思えば 頼もしい限りだし…なんて言い出すイエスへは、

 「…いや それは“褒め言葉”になってないから。」
 「え? そうなのかい?」

 今時の子は女子同士でも
 毅然としていて凛々しい人を
 “ハンサム”とか言い合ってるのに?

 いやうん、だから今時の子の間ででしょ、それ、と。

ネット世界も遊び場にしているイエスは、
時折こういう“今時ネタ”も持ち出すものの。
若い子か大人か、通用する対象が微妙な事象なだけに、
その落としどころへブッダ様が困ってしまうのも相変わらず。
でも確かにそういうのってありますよね。
今時の人って“普通”を褒め言葉みたいに使いますが、
自慢のお薦め料理を
“うわ、これ普通に美味しいっ!”と言われて
喜色満面、喜ぶシェフは まず居ません。
どんなに喜々としてであれ、
“全然大丈夫っ! うんっ、普通に美味しいっ!”
なんて言われちゃあ、
複雑な気分になるってもんです、大人はね。
きっと“不味いから覚悟しろ”と言われて来たんだとか、
そういう誤解しか生まれません、ご用心。

 「雨でどこもかしこも濡れてるのはかなわないけど、
  草が抜きやすいのは助かるね。」

わたしら あんまり握力がないからと、
ご近所の顔見知りのおばあちゃまたちがほほと笑って仰せだが。
空き地とそれから月極駐車場の金網フェンスの足元を、
もう10m以上は綺麗に浚っておいでという、
何とも粘り強い底力なのへと、

 「おおう、頼もしい。」
 「…はんさむがーる。」

聖人二人が素直に驚嘆し、
ついでに…イエス様のつぶやきへ
ブッダ様が“おいおい”と裏手ではたいて突っ込んでおれば。
そんな二人のすぐ間近にいた愛子ちゃんが、
それはそれは無邪気なお声を上げて言ったのが。

 「あ、醤油の匂いする。」

  どきっ。

え? 今の“どきっ”て誰の?
…ということへまで気がついたのは筆者のみですが。
雨に洗われた草いきれの青々とした香りの中へ、
言われてみれば微かに、

 「香ばしい匂い、しますね。」

こちらもお料理には造詣の深いブッダが気づいたようで。
すっと通った鼻梁をやや立てるようにし、
何処からだろう、料理中っていうほどの強さじゃないけれどと
周囲を見回す傍らで、

 「本当だわね。それも いいお醤油の匂いだわ。」

児童公園のシンボルツリーか、
小ぶりなスズカケの木立の足元に屈み込み、
不揃いな芝草のあちこちから伸びる雑草を
念入りに抜いておいでだった静子さんが。
さして関心はなさげな振りながら、
それでも限定的なお言いようを付け足したものだから。

 「ですよね。贅沢に使ってる風味の匂いだ。」
 「しかも無添加。」
 「え、そこまで判るんですか?」
 「主婦やってればそのくらいはね。」

主夫と主婦が、常識ごとのように言い当てておいでだが、

 「イエス、わかる?」
 「さ、さあ〜。」

駈けて来た愛子ちゃんから ねえねえと訊かれたヨシュア様、
わたしなんて、そんな匂いがすることさえまだ判らないけれどと、
ある意味、度肝を抜かれたようなお顔になって、
凄腕主婦二人を見やってしまったほどであり。
そうまでの視線を浴びるのが、だが、
姐さんにおかれては ちいとも嬉しくないらしく。

 「あたしは出来合いのものは苦手なんで、
  総菜でも何でもいちいち作るほうだから。」

そんな習いの積み重ね、
醤油やみりんの香りくらい
嗅ぎ分けられるようにもなるってと。
自慢というより、
やや照れ臭いことのように言い捨てた静子さんだったのへ、

 「…いいものがお判りになる。」
 「だから、そんなこと何の自慢にもならないけどサ。」

繰り返すことで強調された気がしたか、
否定気味に言い返した姐さんが、だが、

 「…あんた。」

おやと、その尖りかけていた表情を和らげる。
視線の先で、他でもないちゃんが、
ちょっぴり沈んだ表情と雰囲気になって立ち尽くしていたからで。

 「醤油の匂いがするって、わたしよく言われてたんですよね。」

あ…っと、表情を弾かれた静子さんだったのは、
この上等な醤油の香りの源が彼女らしいと気づいたと同時、

 「あ、ご、ごめんよ。そのつい…っ。」
 「いえ、いいんです。
  もう慣れっこですし、
  ウチの佃煮はみんな好きだって言ってくれますし。」

静子さんが謝ったのは、
年頃のお嬢さんには“何かの匂いがする”なんて言われること、
どれほどトラウマになるかを察したからであり。

 《 そういうものなの?》
 《 みたいだよ。》

特に日本人はね。

 「でも血なまぐさいよりマシだろうに。」
 「ああ、生臭いと引かれますよね。」

ちらとお顔を上げたちゃんとしては、
いりこや切り落とし肉の佃煮は、その素材が生臭いのを思い起こしたものか。
そして、たまたまそっちの方向にいたのがイエスだったものだから、

  ―― あんたっ、
    こんないたいけない子をこの世界へ引きずり込む気かいっ!

雨上がりのしっとりした空気の中、
鋭い眼光が飛んで来たと同時、

 《 うあ、いま静子さんの心の声が聞こえた、私っ。》
 《 うんうん、わたしにも聞こえた。》

そして…静子さんが彼女に関して何か誤解してなさるらしいことも、
今気がついたよ私と、
知らぬ間に また何かこんがらがってたらしいことへ、
ブッダ様がその優しい肩を
がぁっくりと落としたのは言うまでもなかったりするのである。
とはいえ、そればかりは今ここでどうにか出来るものでなし。
いっそ、イエスが実はパン職人だったということで話を均した方がいいか、
でもなあ、そっちもなかなか深く誤解されている“イエス極道説”なだけに、
何を言っても“そう取り繕いたいのですか?”としか
受け取ってもらえない気がするしと。
こっそり考えあぐねておいでの彼なのをよそに、

 「わたしもね、
  ウチの職人さんの匂い、すぐ判っちゃうんですよね。」

ひょいとしゃがみ込んださん。
そのまま まるで親の敵のように、自分の周囲の草を摘みまくり始めて。

 「小さい店ですから、
  年功序列とか厳しい上下関係があるって言うんじゃないけれど。」

それでも 煮詰め役とか味付け配合役とか、
持ち場はキャリアの差で大体落ち着いてるせいか、
それぞれの分担によって匂いの種類というか、微妙に違うんですよねと、
こちらさんもまた、その道の玄人ならではなお話をご披露くださって。

 “でも…。”

何故だろうか、
この語りようには別な雰囲気も醸し出されているような気がする。
砂浜で波の音を聞きながら、
互いのお顔は恥ずかしいから見られなくて、それで、
足元の波打ち際の濡れた砂へ、
ついつい指先で描くのは…

 《 …というシチュエーションに似てないかな?》
 《 うん、私もそう思ったところ。//////》

ちゃんたら、そんな人が、しかも実家のお店にいたなんてねと。
何でだかこちらまで女子高生みたくわくわくしだした聖人のお二方だったりし。
そんなこんなする間にも、彼女のお話は訥々と進んでおり。

 「後ろを通りかかっただけとか、
  どうかすると
  道の向こうにいるのとかが判ったりする人がいて。」

それをその人に言ったらば、

  ―― ウチならではの
     継ぎ足しダレの匂いがするからだろなぁ、って

外回りもする、樽や大へらを洗うのは表でだから、
よくよく陽に焼けたお顔のお兄さんは、
私が小さいころはちょみっとイヤだった言われようへ、
それは誇らしげに笑うんですよね、と。

 「……。/////」

何とも愛らしくもじもじしながら、
もしょもしょと語るお嬢さんだったりするものだから。


  おややぁ?/////// × @


愛子ちゃん以外の大人の方々、
そろって“あれまあvv”とばかり、
何かしらへの甘い甘い感慨深さを覚えたのは
言うまでもなかったのでありましたvv




     ◇◇◇



 「おーい、そっちポリ袋は足りてるかぁ?」

作業にも熱が入っての、口数もふと減った頃合いへ、
離れたところからやって来たのが、今日の作業の主管らしいおじさんで。

 「あ、もう一杯だよね。」
 「ああ、それと不燃ごみの袋もないか、訊いて来ておくれな。」

こんな作業にもたくさんの人が集まるような土地柄ながら、
通行人には困ったちゃんもいるものか。
空き缶やらペットボトルやらも ぽぽいと捨てた輩がいたようで。

 「判った、訊いて来るね。」
 「あ、一人で大丈夫かい?」

早速たったか駆け出したイエスへ、
ちゃんと正しく訊けるかを案じたブッダもついつい追従しかかったのは、

 「そんな大きい雷だったの?」
 「うん。愛子怖くてとーたんに ぎゅうしてた。」

愛子ちゃんがへと
そんな話を振っていたのから逃げ出すようにも見えたから。

 “そっか。わたしたちそれどころじゃなかったけれど…。”

あの午後のにわか雨の最中には、雷も結構光っていたらしく。
あまりの動転で振り回されていたとはいえ、

 “雷って…。”

彼ら聖人の間では、
言うまでもなく、イエスの父上のお怒りの発露でもある現象だから。
それだのに気がつかなんだことへ、
御子様が何かしら気にしていないかを案じたブッダ様であり。
先に駆け出した彼から やや出遅れたのあっさり詰めての追いつけば。
それを待っていたかのように、ちょっぴり俯き気味のイエス様、

 「父さんたら不甲斐ないって私へ怒っていたのかなぁ。」

そんな呟きをこぼされる。何がとは言われずともだったので、

 「それはないと思うけど…。」
 「だってさぁ。」

茨の冠の陰から、
うっすら赤い汗が滲み始めているイエスだと気がついて。

 「…ともかく。どっかでお顔を洗ってこうね。」

どこか突飛な会話になりかかるイエスとブッダからは、
微妙に死角となってた一角にて。
こちらはこちらで 微妙な顔合わせが対峙を始めていたりして。

 「あの子だ。」
 「ああ。」

児童公園を巡るフェンス越し、
清掃作業中の人々が三三五五散る中から、とある人物へと視線を向けたは、
横長のミラー加工されたサングラスをかけた二人連れ。
二人ともかっちりとしたデザインシャツをまとっていて、
ボトムはトラウザーパンツ、
つまりはテイラーズタイプのスラックスといういで立ちであり。
片やは随分と上背のある偉丈夫で、
連れは、そんな彼と並んでいるからか華奢で小柄に見えはするが、
何の何の、肩も背条もかっちりすっきりした、
なかなかに凛々しい青年という二人連れ。
明るい金髪に、いかにも鋭角的な面差しからして日本人ではなさそうで。
それが目串の元か、
手にしていた小さなプリントアウトの紙片をシャツの胸ポケットへ収めると、
目的の人物へと歩み寄る。

 「そうですか。
  あなたがイエス様のところへ転がり込んでいるという…。」

前振りもなしにいきなり、そんな言いようを
屈み込んでいた頭上から降らされたさんが“は?”と振り仰げば。
それぞれに目元を覆っていた黒メガネをすらりとした指にて外しつつあった、
白人だろう異国人の男性が二人ほど。
かけられた言いようは完璧な抑揚の日本語だったのでという油断もあったせいか、
そんなきらびやかな姿へ一瞬ハッとしただったものの、

 「何なんですか、あなたがたっ。」
 「…え?」

用件を言い出すより、いやいや名乗るより早くという間髪入れず。
の方から矢継ぎ早にまくし立て始めたのだからこれはびっくり。

空気読みなさいよね、それって口外しちゃあいけないことなのよっ、イエスせんせえのお立場ってものも考えたらどうなのっ、これだから居丈高な男って嫌いよ、実は中身は大したことないってのが相場なんだから…というの。

相手に何も言い切らせることなくの素早い間合いで、
しかもしかも、ぐいと顔と顔がくっつくほども詰め寄って。
小声でながらもマシンガンのように連ねたさんは、
一体どれほどいろんなお顔をお持ちなんでしょうか。(う〜む)

 というか

『家を出たっていいなんてほどの思い詰めから、
 何でも思い切ったことが出来る
 そんなモードになっていたんじゃあないのかなぁ。』

のちにブッダ様が評したそれが、一番近い状態だったと思われて。

『ほら、ペトロさんも言ってたじゃないか。
 布教活動中はバーサク状態だったって。』(おいおい)

不意を衝くつもりまであったかどうかは不明ながら、
見事なまでの電光石火を先に披露されたのは癇に障ったか、

 「私は主に愛された弟子なのだ。
  昨日今日知り合ったばかりなどという蓄積の浅い存在に
  そうまで罵倒される謂れはない。」

小柄な君のほうがそんな言いようで突っ掛かり返したものだから、
さんたらますますのこと、むっかりの度合いも増したらしく。

 「何よ、自分で大層に格を言う人ほど自信がないって知らないの?」
 「な…っ!」

さんは小柄なお嬢さんだが、
相手もさほど大柄ではないその上、
その金髪白皙というキラキラしさから線の細い印象が得られたものか。
どうかすると対等な年頃同士というよな感覚にでもなったのだろう。
腰へこぶしを当てての胸を張り、精一杯の居丈高を装うと、

 「自分で自分を飾る人ほど当てにならぬというのです。
  第三者から言われてこその重き正当な評価なのであって、
  王だの天才だの神だのと自分から言う人ほど怪しいってもんですよ。」

どうだ正論だろうが参ったかと、
つけつけと言い張るお嬢さんだが、その文言が実は ややヤバかった。

 「ななな、なんて恐ろしい、
  神をも恐れぬとはまさにこのこと。
  天から怒りの鉾を受けるべき暴言だぞ、貴様っ!」

まこと真性の神にかかわる存在にしてみれば、
そんなことを自分から言う人ほど怪しいなどという言いよう、
神への冒涜としか聞こえなんだのも無理はなく。
双眸を鋭く吊り上げての、強声で吠えた彼だったのへ、
負けるものかとの威勢よく、

 「なんて大仰な。第一、イエス先生は弟子なんて取らないって…。」

そこまでを一気にまくし立てた彼女だったが、

  ――― 不意に
      その声が止まってしまい

それのみならず、周囲の人々も制止して見えて。
ほんの鼻先、梢を渡る風さえ止まったは異様と、
あれれと双眸を瞬かせたヨハネだったが、そんな自身の身も動かない。
いよいよおかしいと焦りかかったその間合い、

 《 落ち着きなさい、ヨハネ。》
 《 先生っ!》

何の騒ぎかと思えば君らだったとはと、
やっと制止出来たのへ、はあと胸元を押さえつつ、
別の場所へ移っていたはずなイエスが、ひょこりとお顔を出していて。
いや実は もちょっと前に気がついたのだけれども、
勘違いし合っていての咬み合ってないところ、
どう説明したものかと泡を食ってる間に出遅れたものだから。
ごめんねと、ちょっと強引な割り込みを仕掛けた彼であり。

 《 これはブッダの神通力だよ。
   我々の時間を引き延ばしただけ。
   だから急いで説明するね、二度とは言わないからよく聞いて。》

身動きも出来ぬままな彼らの間に、声だけがさらさらと流れており。

 《 彼女が言った“神”というのは、我々の父たる神のことではないんだよ。
   その道の途轍もない名人、神憑りな才能もつ人のことを
   最上級との称賛もて“神”と呼ぶのだ。》

 《 そ、そんな…。》

某飲み会で勉強しましたものね、イエス様。(苦笑)

 《 神業の“ワザ”のところを省略したようなものとして、
   さらりと聞き流せるようにおなりなさい。》

 《 は、はいっ。》

とはいえ、まだ何か納得の行かぬものでもあるものか、
語尾が微妙に萎んでいた彼であり。

 《 どうしたのですか?》
 《 先生は、この娘を我らの末席へ据えるおつもりなのですか?》

  …………………はい?

念を込めることへ集中しているはずのブッダ様まで、
その身を思わず斜めにしかかったほどの、何とも突拍子もない質問だったが。
じりとも動けぬ状態ながら、
だがだが その視線にたたえられた切ない光は何とも無垢なそれであり。
真意を聞けねば納得が行かぬと
愛する師へ食い下がる、末っ子弟子さんだったれど。

 《 いや、それも違うんだ、ヨハネ。》

一体何処で誰から何を訊いて来たのやらと、
聖痕とは別口の頭痛がしそうになりながらも、

 《 この娘さんは、私を神の御子だとは思っていない。》
 《 なんですて?!》

あああ、イエスったらまたややこしい言いようをしてと。
ブッダが内心で溜息をついたものの、
神の御言葉を咬み砕くよりややこしい事態なのだからしょうがない。

 《 っていうか、君たち一体誰からこの話を聞いて来たのっ。》

出来れば触れずに見守っててほしかったところだってのにと、
ともすればキレかけ、
これ以上のゴタゴタはもう御免なんだからと
いつになく声を張った主の見幕に、

 《 いえあの……ペトロとアンデレから。》

おずおず答えてしまった最も幼いのだろう弟子の返答へ、

 《 ほほお…?》
 《 イエス、目がすわってるよ。》

これ以上、怖がらせるのはやめなさいと。
微妙によそ様のお宅の事情ながら、
大きに関係者でもあるブッダ様が見かねて割って入ったのは
言うまでもなかったのでありました。




    ◇◇


彼らは確かにイエスの知り合いで、
のことを不審な接近者だと思ってのこと、
一体何処の何物かと問いただしに来たらしい、金髪のご兄弟だと聞かされて。
落ち着いて見やれば、いかにも一本気で誠実そうな面構えだしと、
そこはイエス本人からの言葉でもあったため、
彼女としても何とか納得してくれたようで。

 「でもでも、先生たら嘘つきましたね。」
 「ははははい?」

あの人、自分は先生の弟子だって言ってましたもの…と。
こっちはこっちで、そういう誤解から、むむうと膨れっ面をしている模様。

 「ああいや、彼の言う“弟子”というのはパンに関する話じゃなくて。」
 「じゃあ何なんですよ…って。」

すったもんだの末の、アパートまでの帰り道。
詰め寄りかけた彼女だが、自分から何かに気づいたらしくぴたりと立ち止まると、


 「あ〜〜〜〜〜っ、しまった忘れてたぁっ!」


ご町内じゅうに響き渡るほどの大きな声を張ってのそれから、
加速をつけての一気に駆け出したのを見送って…、

 「あっ。」 「あ…。」

次々に遅ればせながら、両先生がたも気がついたことというのが、

 「パンの生地。」 × 2

確か1時間おくとか言ってなかったか。
ああそう言えばと、お顔を見合わせたそのまま、
彼女が向かったのだろう、自分たちの住まいを目指して駆け出す最聖たちであり。

 もしかして、この段取りを忘れがちなうっかりが、
 周囲がパン作りは向いてないと断じてしまう要因なのかも?

 《 鍋につきっきりの佃煮作りでは、
   うっかりしようがないからねぇ。》

 《 そうだよねえ…。》

何とも波乱多き1日だろかと。
はあと息をつきつつも、お互いの口許には苦笑がちらり。
二人とも“世話の焼ける子ほど可愛い”という、
そんな境地に入りかかっているのかも知れず。
せめて失敗へと大きく嘆かぬよう、
その傍らにいてやらねばねと、
ほこりと微笑って顔を見合わせたお二人だった。








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 *はてさて、
  さんのパンは、一体どうなりますことなやら。
  そして、このお話はいつ決着するのでしょうか。(笑)
  バカップル話が増殖したお陰様、
  気持ちの仕切り直しが
  毎回難しくなりつつあるのが困りもんでございます。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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